民事再生事例−1(給与所得者再生)


1 概略

依頼者は48歳、会社員の男性

平成17年4月に東京司法書士会の無料法律相談に来て、

翌日当職に債務整理を依頼(受任時の債務総額約640万円)

平成17年6月1日、東京地方裁判所八王子支部に給与所得者再生を申立

平成17年12月16日、再生計画認可決定確定(3年で190万を返済)

平成18年3月より再生計画に基づく返済を開始予定


2 受任時の状況

(1)債務の状況

 依頼者は平成10年頃から競馬にのめり込み、これまでに約4000万円ほどを注ぎ込んでいた。賭け金はサラ金からの借入で、その返済のため預貯金を使い果たし、親族の援助を受け、親から相続した不動産を処分するなどして何度か完済したが、それでも競馬を止められずに借入を繰返してしまった。この2年のあいだに自殺も2度試みたとのこと。

当職が着手した時には、サラ金・カード会社6社、及び国民生活金融公庫から引き直し計算後で合計約560万円の借入れが残っていた。ギャンブルの繰り返しで直近の借入額が多いので、利息制限法に引き直しても80万程度しか減少しなかった。このうち200万円が長男の進学のための国民生活金融公庫の教育ローンで、これは相談に来る前月に親族を保証人にして借り入れ、まだ一度も返済していない。他に公庫と同時期にカードローン1社から30万円を借入れて競馬に使い、こちらも全く返済していなかった。

(2)家族・家計の状況

3歳年上の配偶者と長男(19歳、専門学校生)、長女(17歳、高校生)の4人家族で、住居は家賃7万の社宅。不動産・有価証券・自動車などはなし。

本人の給与所得(年収約500万)と妻のパート収入(年収約130万)で、生活の余剰は少ない。さらにサラ金への返済のため前年(平成16年)に親から相続した土地を処分したので、その譲渡所得が約430万円ほどあり、税負担が重くなっていた。結局税金は分割払いにしてもらった。

 国民生活金融公庫の教育ローン200万は、妻の姉の夫が保証人になっており、保証人はすでに退職して年金収入で暮らしているので保証債務の返済は苦しい。


3 方針の選択

債務調査中にサラ金の1社と残債務の9割を免除することで和解が成立し(この業者が最も借入が多くこれまで累計で元利金1400万円を支払っていた)、債務総額は約510万、依頼者の年収とほぼ同額となる。

 ただ、競馬に使用した金額が大きいので破産を申立てても免責は困難と判断。かりに少額管財事件となった場合、返済額や手続費用で民事再生と大差ないことになるので、破産にメリットは見出せなかった。また、支払不能の理由が全額ギャンブルで、債権者の中には一度も返済を受けていないところが2社あったので、債務者に対しモラルを問うか経済的利益を優先させるかの葛藤に悩まされた。

 民事再生には小規模個人再生と給与所得者再生があるが、本件の債権者には国民生活金融公庫が入っており(小規模個人再生の場合、公庫は必ず異議を申立てる)、これが債権額の4割に達するので、安全を見越して債権者が異議申立をできない給与所得者再生を選択した。ただし、再生を申立てたら公庫は保証人に請求するので、事前に保証人へ理解と協力を求めた。

4 経過

平成17年6月1日 東京地方裁判所八王子支部に給与所得者再生を申立

    同 日      個人再生委員選任

平成17年 6月17日  個人再生委員と面接

平成17年 6月24日  開始決定

平成17年 7月22日 (債権者の)債権届出期限

平成17年 8月 5日 (再生債務者の)債権認否一覧表提出

    同 日      報告書(法124U,125T)提出

  同日より平成17年8月26日まで、一般異議申述期間

平成17年 9月16日  評価申立期限

平成17年 9月30日  再生計画案提出

平成17年10月14日  意見聴取に関する個人再生委員の意見書提出

平成17年10月24日  再生債権者の意見を聞く旨の決定

平成17年10月28日  回答書提出期限

平成17年11月11日  認可の可否に関する個人再生委員の意見書提出

平成17年11月16日  再生計画の認可決定

同 日      再生委員の報酬を25万円とする決定

平成17年12月 1日  再生計画の認可決定公告

平成17年12月16日  再生計画認可決定確定

5 附記

(1)  東京地裁では全ての再生事件で一律に再生委員が選任され、その報酬が25万円となる(分割払が認められる)。これは債務者への負担が大きく、民事再生の利用を阻む一番の原因になっている。横浜地裁では弁護士申立以外の場合に再生委員が選任され、その報酬が19万円(但し一括払い)となっているなど、裁判所毎に再生委員の選任・報酬の運用が異なるのも理解に苦しむ。

加えて、法律扶助協会は再生委員の報酬を扶助の対象外としている。裁判所の運用に加えて扶助制度までが民事再生を使いにくくしているのはどういうわけか。法律扶助協会は予算を消化しきれず困っているというのに。

(2)  本件の依頼者は勤続年数が長いので退職金見込額や生命保険解約返戻金が多くなり、それらが再生における清算価値を引き上げ、計画返済額を思ったよりも増やす結果となった。新破産法における自由財産の拡張と、民事再生の最低返済額の清算価値保証は、混同しやすいけれども似て非なる概念で、裁判所の扱いも両者は異なるから注意が必要である。

さらに、本件では6月1日に申立て、6月17日に個人再生委員と面接をしたにもかかわらず、6月24日に開始決定が出された。この日はちょうど給料とボーナスの支給日で、債務者の預金額が多くなっていたので、清算価値がさらに大きくなってしまった(開始決定日における債務者の財産額が再生返済額を左右する)。

東京本庁では個人再生委員と面接した翌日に開始決定が出されることが通例であるから、裁判所(八王子支部)がわざと給料日を狙って開始決定を出したようにも思われる。6月・12月の申立はできれば避けた方がいいかも知れない。

 (3)  本件では保証人を巻き込んだので、その対応に苦慮した。幸い保証人の協力は得られ、また保証人まで破産させるような事態には至らなかったが、保証人を取っていると債権者は強気で傲慢になるので、債権者・保証人双方との交渉には神経を使う羽目になる。

(4)八王子支部の再生申立は最高裁モデルの書式を使用している。当職は横浜地裁の書式を入手して使用した。東京本庁は独自の簡略な書式を使う。

また、八王子支部は司法書士が債務者に代わって裁判所との連絡を認めるが、東京本庁はこれを認めず、債務者本人が裁判所との連絡を強いられる。ご参考まで。


               文責 菊 都 (http://jikohasan.org/