by 東京司法書士会 世田谷支部
サラ金からお金を借りるときには、使い道ばかり考えて利息のことは意識しない方が多いようですが、冷静に考えればとても返済できないような高い利息の契約をさせられているのです。
余りにも高い利息を取ることは法律で禁じられているのですが、どういうわけか(一説には金貸し屋さんがお金で法律を買ったとか?)日本では利息に関する法律が何本もあって、それらが互いに矛盾する内容を定めている、という奇妙で分かりにくい状態になっています。
その中で、いわゆる「過払い」が発生する仕組みを知っていただくために、利息制限法、出資法、貸金業規制法の3つの法律を中心にお話ししましょう。
まず、高金利を規制する基本が利息制限法です。この法律では、貸し金の元本に応じて、利息の限度が次のように定められています。
元本が10万円未満 年20%
元本が10万円以上100万円未満 年18%
元本が100万円以上 年15%
利息制限法は強行法規であり、当事者の契約によっても、この制限利率を超える利息を取ることは許されません。利息制限法に反して高利の利息を受け取っても、それは民事上「無効」とされます。
「無効」ということは、おおざっぱに言えば、法律上、払いすぎた利息の返還を求めることができる、という効果を生じます。
また、貸し金の契約書で「債務者は利息制限法に基づく抗弁を主張しない」などと書かれていることがありますが、このような契約条項も、利息制限法の強行法規性から許されず、その契約条項は無効となりますから、たとえこんな契約書に署名や押印をしてしまっても、やはり払いすぎた利息の返還を求めることができるのです。
利息制限法の規定そのものは単純で隙だらけなのですが、立法の不備を補うために、多くの判例によって法律の隙が埋められ、司法の場で高金利を規制する努力が積み重ねられてきました。
ただし、利息制限法に違反する高金利を取っても、それが後述の出資法に違反しない限り、刑事罰は果たされません。
刑罰をもって高金利を禁じる法律が、出資法です。
貸金業者による貸付について、出資法は、利息を、平成12年5月31日までは年40.004%以下、平成12年6月1日からは年29.2%以下と定め、これに違反したら懲役や罰金が果たされることになります。
(以前、商工ローンによる厳しい取立てが社会問題になったことをご記憶かと思います。日栄(現在のロプロ)の、「腎臓売れ、目ん玉売れ」のアレです。この事件を契機として、利率の限度が40.004%から29.2%へ引き下げられたのでした。)
では、利息制限法が15~20%の金利と決めている一方で、出資法が29.2%と定めている、その9.2~14.2%の差は、どういうことなのでしょう?
これが「無効だけれど処罰されない」、いわゆるグレイゾーンとされている部分です。
大半のサラ金は、このグレイゾーンの金利で貸付を行い、莫大な利益を上げているのです。個人的には、グレイゾーンの存在は論理矛盾であり、法律の欠陥だと思います。そして、グレイゾーンの存在を肯定するかのような法律が、次に述べる貸金業規制法43条の「みなし弁済」です。
貸金業規制法(貸金業の規制等に関する法律)43条で、「みなし弁済」という規定が置かれています。この規定は、貸金業者が、法律の定める一定の要件を守ったなら、前記の利息制限法を超過するグレイゾーンの金利を有効に受け取ることができる、とするものです。サラ金や商工ローンが堂々と高金利の貸付を行う根拠はここにあるのです。
しかし、みなし弁済が有効に成立するための要件を(細かくなるので個別の要件には触れませんが)、裁判所は非常に厳格に解釈し、事実上、みなし弁済は滅多に成立しない状態になっています。
つまり、多くの貸金業者が受け取っている高い利息のうち、利息制限法を超える部分については、厳密に法律に照らしてみれば、本当は受け取ることが出来ないものなのです。ですから、取りすぎた利息は(法律用語では、これを「不当利得」と呼びます)、当然、返さなければなりません。
したがって、サラ金からの借り入れや返済 ―たぶん29%位の利率です― を、利息制限法の利率に引き直して計算し、払いすぎた利息を元本に充当していくと、債務の額が減少します。そして、―借入れと返済のパターンにもよりますが、おおよその目安として― 取引期間が5・6年を超えていると、債務はすっかり無くなってしまい、逆に払いすぎた利息の返還を求めることすらも可能になります。
これが「過払い」と呼ばれる状態です。
サラ金の返済に追われる人たちの中には、実は過払いになっている、というケースが数多くあると推測されます。別稿で述べるA社とMさんのケースは、過払いのまさに典型例でした。
Mさんは「どうも返済を減らせるらしい」と考えて司法書士事務所を訪ねましたが、おとなしく黙っていたら、大金を取り戻せることも知らずに、A社から言われるままにいつまでも返済を続けていたことでしょう。
“テレビでコマーシャルをしているような大きな会社なら、悪いことはしないだろう”と思う方もいるかも知れませんが、「大企業だから安心」などということは絶対にありません。サラ金屋さんは、たとえ無効な利息でも、払ってくれるなら平気で請求してきます。また、時効消滅している債権でも(サラ金の債権は5年で消滅します)堂々と裁判を起こして回収します。
驚くべきことに、簡易裁判所に持ち込まれる事件の90%以上が、サラ金の取り立て訴訟なのです。信じられないことですが、税金で運営され正義を実現する使命を担うべき裁判所が、実際にはサラ金の取立て部門として使われているのです。
過払いの金額が少なければ、サラ金は ―業者にもよりますが― 任意の交渉で返還に応じますが、高額になると裁判をしなければ有効な回収は難しいでしょう。
そして、返還を求める金額に応じて、140万以下ならば簡易裁判所、140万円を超える場合には地方裁判所に訴えを起こすことになります。司法書士が訴訟を担当する場合、簡易裁判所なら本人に代わって裁判を行えますが、地方裁判所では、訴状などの書類は作成しますが、実際の裁判は本人が裁判所に出向いて行うことになります。
過払金返還訴訟は、理論的には「不当利得返還請求訴訟」と呼ばれる訴訟類型になります。民事裁判は高度な専門知識が要求されますから、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのが無難でしょう。
平成18年12月に公布された改正貸金業法が、ついに平成22年6月18日に完全施行されました。
完全施行までに、貸金業界から激しい抵抗がありましたが、法律そのものは変更せず、内閣府令で「借り手の目線に立って」運用を変更する修正が加えられました。
しかし、貸金業界を擁護する民主党の族議員の圧力によって、内閣府令には、改正法の趣旨を骨抜きにして貸金業界の利益を擁護する毒まんじゅうが入れられました。
問題となるのは、新たに導入される総量規制に関連して、すでに総量規制に抵触している借り手のために、「総量規制に抵触している者の借入残高を段階的に減らしていくための借換えの推進」を掲げて、返済のための借換えを総量規制の例外として認めていることです。つまり、おまとめローンの推奨です。
「借入残高」とは利息制限法に基づく債務であるべきです。
内閣府令では、「借入残高」をグレーゾーン金利による約定残高としています。
しかし、総量規制の前提となる「借入残高」とは利息制限法に基づく債務でなければなりません。最高裁昭和39年11月18日大法廷判決以来、利息制限法超過部分が絶対無効であることで司法判断は一貫しているのです。
最近の最高裁判所第三小法廷平成22年4月20日判決(平成21(受)955 不当利得返還請求事件)も,「継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合には,各借入れの時点における従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項にいう「元本」の額に当たると解するのが相当であり,同契約における利息の約定は,その利息が上記の「元本」の額に応じて定まる同項所定の制限を超えるときは,その超過部分が無効となる。この場合,従前の借入金残元本の額は,有効に存在する利息の約定を前提に算定すべきことは明らかであって,弁済金のうち制限超過部分があるときは,これを上記基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算することになる。」と述べて,利息制限法を超過する約定利息は絶対無効であり,制限超過部分を元本に充当して法律上有効な債務を算出するべきことを確認しています。
「借入残高」をグレーゾーン金利による約定残高と解する内閣府令は、確立した司法判断と齟齬します。
「総量規制に抵触している者の借入残高を段階的に減らしていくための借換えの推進」についても、すでに総量規制に抵触している借り手は,返済のための借入を繰り返す,いわゆる自転車操業に陥っています。このような借り手については,前述の通り、借換えよりも先に,まず利息制限法超過貸付を利息制限法に引き直して,法律上有効な債務額を確認させるべきです。
利息制限法への引き直しで債務が減縮したり,過払いが明らかとなることによって,総量規制に抵触する債務者は大きく減少すると考えられます。その上で,利息制限法以内での返済の継続や任意整理,特定調停などの選択肢を考慮するべきであり,「まず借換えありき」では,利息制限法超過部分までも含めた支払義務のない債務の返済を継続する危険が大きく,多重債務問題の解決を目的とする改正法の趣旨に反する結果となります。
近時も,名目上は2000万円以上の債務を負って自殺しながら,利息制限法に引き直すと1800万円の過払いであったり(北海道の事例),サラ金への過払い請求訴訟の最中に原告が餓死した事案(新潟)なども報告されています。
総量規制を導入する以上は,貸金業者は,全ての利息制限法超過貸付を利息制限法に引き直して,法律上有効な債務額を債務者に知らせるべきであり,過払いが生じていれば,貸金業者は自主的に返還するべきです。