民事再生

1 個人民事再生とは  (和議法に代わる新しい制度)
 個人民事再生は平成13年にスタートした新しい制度で、民事再生法が定める個人向けの債務整理手続であり、多額の借金を抱えて支払いが出来なくなってしまった人のための、法律上の救済措置の一つです。(他にも現行法上は破産・特定調停などの方法も用意されています)
 個人民事再生は、大まかに言えば、将来にわたって継続して収入がある人が、債務の2割以上の金額を3年で分割返済し、残りを免除してもらうという仕組みです。

 民事再生は、自己破産と比較して、次のようなメリットがあります。

①財産を守ることができる
  自己破産では、不動産や自動車、生命保険の解約返戻金など、高額な(20万円 以上)財産を手元に残しておくことはできません。
  これに対し、個人再生では、破産手続きで配当される以上の金額を返済しなけれ ばなりませんが(清算価値保証の原則)、3年または5年の分割返済となるため、 資金繰りをがんばり工夫すれば「どうしても手放したくない」資産を守ることが可 能です。

②資格の剥奪を免れることができる
  破産すると、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士、宅地建物取引主任者など の公的資格が失われ、会社役員、証券や生命保険の外交員、損害保険代理店、警備 業者、警備員といった職業にも就けなくなります。
  しかし、個人再生では、特定の資格や職業が制約を受けることはありませんか
 ら、お仕事の関係でどうしても自己破産を避けたい人には好適です。

③ギャンブルや浪費による債務でも、対応が可能
  過度の浪費やギャンブルで借金を作ってしまった場合、破産法上の「免責不許可 事由」に該当し、自己破産しても免責が受けられず、債務が残ってしまう可能性が あります。
  一方、個人再生では、一定の金額を分割返済しなければなりませんから、経済的 には債務全額が免除される破産よりは不利ですが、免責不許可事由などは特に問題 となりません。そこで、ギャンブルが原因で債務を作ってしまい、自己破産では免 責が難しい人でも、相応の負担をすることで再出発をするチャンスが得られます。

④住宅ローンを抱えた人が、マイホームを失わずに再起できる
  住宅を購入し、住宅ローンを支払っている人が自己破産した場合には、住宅を手 放さなければならなくなります。
  しかし、個人再生を選び、再生計画に「住宅資金特別条項」(いわゆる“住宅ロ ーン条項”)を定めれば、債務の中で住宅ローンだけは契約通り支払を続け、それ 以外の借金を個人再生で整理することで、マイホームを手放さずに経済的債権を果 すことが可能となります。

 

2 2つのメニュー(小規模個人再生と給与所得者等再生)
 ①小規模個人再生
  主に個人事業者向けの制度です。住宅ローンを除く債務の総額が5000万円以 下で、将来、反復または継続して収入を得る見込みがある人が利用できます。

 ②給与所得者等再生
  主にサラリーマン向けの制度です。住宅ローンを除く債務の総額が5000万円 以下で、給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、その変動幅が 小さい(年20%以内)と見込まれる人が利用できます。

2つの制度の共通項
 ・住宅ローンを除く債務の総額が5000万円以下であること
 (住宅ローンの金額には制限はありません)
 ・返済方法は、原則3年(5年まで延長可能)で、3ヶ月に1回以上の分割払い

2つの制度の違い
 ・再生計画案の決議の要否
  小規模個人再生では、債権者の頭数で半分以上、債権額で過半数の反対に遇え   ば、再生計画は否決されます。
  これに対し、給与所得者等再生では、債権者の決議は不要で、反対されて計画が  否決されることはありません。
 ・返済額
 ①低返済基準
 ⅰ住宅ローンを除く一般債務の総額が100万円未満     全額
 ⅱ一般債務の総額が100万円以上500万円未満     100万円
 ⅲ一般債務の総額が500万円以上1500万円未満    総額の2割
 ⅳ一般債務の総額が1500万円以上3000万円未満   300万円
 ⅴ一般債務の総額が3000万円以上            総額の1割
 ②清算価値保証の原則
  破産手続きによって財産を換価・配当する以上の金額を返済することが
 必要です。
  この判断のためには、生命保険解約返戻金や退職金見込み額も必要となります。
  ただし退職金の4分の3は差押が禁止されていますし、東京地裁では退職金見込 み額の8分の1を資産とみなす運用が取られていますので、生命保険解約返戻金や 退職金見込み額が大きな資産となるケースは少ないでしょう。

  小規模個人再生では、①と②のいずれか多い方の金額を返済しなければなりま
 せん。
  給与所得者等再生は、“①と②のいずれか多い方”に加えて、「可処分所得の2 年分以上」の金額を返済しなければなりません(ここで言う「可処分所得」は、収 入から所得税・住民税・社会保険料を控除し、さらに政令で定められた必要費を差 し引いて算出されます)。債権者の決議が要らない分だけ、最低返済額の要件が厳 しく定められているのです。
 ※どちらの制度でも、住宅ローンは全額返済しなければなりません。

3 民事再生手続の流れ
 ①民事再生開始の申立(スタート!)
 ②民事再生の開始決定                       3週間
 ③債務者の財産の評価(債権の届出・債権者の異議申述)  6週間
 ④再生計画案・財産目録・報告書の提出(債権の評価手続) 9週間
 ⑤債権者による書面決議(小規模個人再生)          11週間
 債権者からの意見聴取(給与所得者再生)
 ⑥再生計画の認可                          18週間
 ⑦再生計画の確定                          22週間
 ⑧再生計画の遂行(3~5年の分割返済)

 ※以上は裁判所での手続きの概略ですが、申し立てるまでに数ヶ月、
  裁判所で約半年と、準備まで含めれば実際には1年がかりになります。
  そして、再生計画が確定してからが本番。
  3年間の返済をしなければなりません。
  そうすると、民事再生には4年間の長期にわたって頑張る覚悟が必要なのです。

民事再生の費用と必要書類

民事再生の費用と必要書類
(裁判所によって扱いが異なります)

 

手続のための費用(東京地裁の場合)
①申立手続費用   1万円(印紙)
②予納金
  裁判所予納金  1万1928円(3回分の官報公告費)
③郵便切手
  80円×20枚 10円×10枚 120円×債権者数×2
④個人再生委員の報酬
 東京地裁では全件で個人再生委員が選任され、弁護士申立の場合15万円・
 本人申立の場合25万円(分割可)
 横浜地裁では本人申立の場合に個人再生委員が選任され、19万円(分割不可)

再生手続開始の申立書類
①再生手続開始申立書
②財産目録
③債権者一覧表
④陳述書

主な添付書類
①戸籍謄本(省略のないもの)
②住民票(世帯全員について、本籍・続柄の省略のないもの)
③給与明細(直近3ヶ月分)及び賞与明細(直近1年分)
④源泉徴収票(確定申告書)及び課税証明書  過去2年分
⑤年金・公的扶助関係書類
⑥家族・同居人の収入証明資料
⑦預金通帳 全冊の過去2年分の写し
⑧保険証券・解約返戻金額証明書
⑨車検証・自動車査定書
⑩不動産登記簿謄本・固定資産税評価証明書・査定書
⑪住宅ローン契約書・償還予定表
⑫建物賃貸借契約書
⑬退職金規定または退職金見込額証明書
⑭清算価値シートまたは可処分所得算出シート
⑮その他 上記以外の資産がある場合、その価格が分かる資料
⑯個人再生委員が指示する書面
住宅ローン特別条項

1 住宅ローン特別条項が適用される要件

 

①人に関する要件
ⅰ再生債務者が自然人であること(法人は不可)
ⅱ再生債務者が住宅(建物)を所有していること
 敷地だけを所有していたら不可

②住宅に関する要件
ⅰ建物の床面積の2分の1以上が、自己の居住の用に供されるものであること
 マンション・一戸建て・新築・中古を問わず可
 店舗兼自宅や、自宅兼賃貸住宅なども、自宅以外の部分の床面積が
 2分の1に満たなければ可
ⅱ別荘・セカンドハウスなどは不可
ⅲ住宅(建物)に、住宅ローンの債権者または保証業者の抵当権が
 設定されていること
ⅳ住宅(建物)に、住宅ローン以外の債権のための抵当権などが
 設定されていないこと 
 事業用資金のために抵当権が設定されていたら、不可
ⅴ住宅(建物)以外の不動産(住宅の敷地など)にも住宅ローンの抵当権が
 設定されている場合には、住宅ローン以外の債権のために、住宅ローンの
 抵当権よりも優先順位の低い抵当権などが設定されていないこと

③住宅ローンに関する要件
 ⅰ住宅(敷地を含む)の建設、購入または改良に必要な資金の借入であること
  借換えを含む。また、住宅の敷地の取得資金でもよい。
  一般債権と異なり、住宅ローン特別条項の債務の額に制限はない。
 ⅱ分割払いの定めがあること(一括返済の場合は、対象とならない)

④その他の要件
 住宅ローンが保証会社により代位弁済された場合には、代位弁済後
 6ヶ月を経過するまでの間に再生手続開始の申立をすること
  →代位弁済によって保証会社に移った債権が、再び金融機関に戻る
  (巻戻し)

2 住宅ローン特別条項の4つのタイプ
 ①期限の利益回復型
  住宅ローンの支払を延滞して期限の利益を失った場合に、
  ⅰもし期限の利益を失っていなければ、再生計画が認可された後に支払期限が
   到来するはずの元本・利息は、従来の(期限の利益を失っていないとした上
   での)契約通り支払う
  ⅱ認可以前に生じた元本・利息および認可時までの遅延損害金は、一般債権と
   同じ弁済期間内(原則3年)に支払う
   期限の利益回復の効果は連帯債務者や保証人にも及ぶ。

 ②リスケジュール型
   ①の期限の利益回復型では完済できる見込みがない場合、住宅ローンの支払
  期限を最長で10年間延長する定めをする。期間延長後のローン完済時に、
  債務者  の年齢は70歳以下でなければならない。
   元本・利息および認可以前に生じた遅延損害金は、①と同じく全額支払わな
  ければならないが、認可以前に生じた元本・利息および認可時までの遅延損害
  金の返済期間については、制限がなくなる点で①と異なる。

 ③元本猶予期間併用型
   ②リスケジュール型によっても再生計画が成り立たない場合に、一般債権の
  弁済期間内で定める期間(eg 3年のうち2年)は、住宅ローンの元本の一部
  および利息のみを支払う、という条項を定める

 ④同意型
   住宅ローンの債権者の同意があれば、①~③以外の内容で(最終弁済期限が
  70歳以上となる、一定期間は利息だけを支払う、遅延損害金を免除する、
  など)特別条項を定めることも可能。

民事再生で減免できない債権
減免できない債権
次に掲げる債権は、債権者保護の必要が高いことから、原則として全額を支払わなければなりません。再生計画でも、3年ないし5年の分割返済が終了した時点で、残額を一括して支払わなければなりません。

①申立人が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
②申立人が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
③夫婦間の協力・扶助及び婚姻費用分担の義務
④子の看護に関する義務
⑤親族間の扶養に関する義務
 もっとも民事再生を考えている人は婚姻費用や子供の養育費の支払にも困難を感じているでしょうが、上記③、④、⑤については、家庭裁判所の調停や審判手続きを経て減額してもらうことになります。

その他の注意事項
・裁判所の審尋
 再生の申立をすると、裁判官が本人と面接をします。面接の内容は、再生計画に基づいてキチンと月々の支払いができるかどうかを聴かれることが殆どです。時間も30分程度で終わります。

・再生委員の審尋
 東京地裁では裁判官の面接はありません。その代わり弁護士から選任された個人再生委員が面接をします(東京では全ての個人再生事件に再生委員が選任されます)。面接場所も裁判所ではなく、弁護士の事務所になります。聴かれることは基本的に裁判所の審尋と同じです。

・弁済の禁止
 再生開始決定が出たら、再生計画が認可されるまで、再生手続きの対象となる債務を返済してはいけません。これはサラ金からの借金ばかりでなく、親戚や友人、勤め先からの借入なども一律に返済を禁止されます。

・住宅ローンは、裁判所の許可があれば返済できる
 再生手続中は、住宅ローンも原則として返済を禁止されます。しかし、支払をしなければ延滞扱いとなって、期限の利益を喪失し、莫大な遅延損害金が発生してしまうことがあります。
 そのようなときは、「弁済許可申立書」を提出して裁判所の許可を貰い、住宅ローンの支払を継続するようにします。

・強制執行の中止命令
 すでに給与の差押などを受けている場合、それら強制執行手続を中止してくれるよう、裁判所に中止命令を出してもらいます。申立ててから早ければ即日、通常は2・3日で中止命令が出されます。
 また、住宅ローンを延滞して競売手続が開始されてしまったときは、裁判所に申立てて抵当権の実行による競売手続の中止命令を申立てることができます。
 この手続では住宅ローン債権者の意見を聴取するため、審理に1ヶ月程度かかるのが普通です。

再生計画と家計管理

再生計画と
家計管理

 

その1 再生計画のポイント

1 再生計画の要件
 ①全ての債権者を平等に扱うこと
  ⅰ支払金額
   たとえば債務の2割を返済する再生計画なら、全ての債権者に平等に
   債権額の2割づつを支払わなければなりません。サラ金には1割で
   親戚や友人には全額ということは許されません。
  ⅱ支払時期
   支払時期についても、全ての債権者に平等でなければならず、友人からの
   借入は先に返し、サラ金は後回しにする、といったようなことは許されま
   せん。
 ②分割払いの方法
   「三ヶ月に1回以上」の支払をする分割払いでなければいけません。
   ですから毎月払うのはOKですが、半年に1度の支払は許されません。
 ③分割期間
   再生計画認可の決定が出た翌月から、3年間でなければなりません。
   2年や1年の分割払いは許されません。
    但し、申立人一家の家計の状況から考えて3年での分割払いが困難である
   と認められる場合には、最長5年まで分割期間を延長することが可能です。
 ④返済額が、法律上の最低弁済額を上回っていること

2 住宅ローン債権者と事前協議を
 住宅資金特別条項付き個人再生を利用する場合、最高裁判所の規則により、
事前に住宅ローン債権者と協議をすることになります。
 住宅ローン債権者のうち、最大手の住宅金融公庫は、非常に好意的で、平成14年
12月から、一定の要件を満たせば、最長15年の返済期間延長措置を認めていま
す。完済時の年齢は問題にされません。さらにボーナス償還の取りやめなどについて
も柔軟に応じてくれる傾向にあります。
 反対に、年金住宅融資は、あまり好意的ではないようです。
 民間のローンは、対応がまちまちです。
 どの住宅ローンでも、保証協会によって代位弁済されてしまうと、代位債権者は
住宅資金特別条項付き個人再生に非協力的であることが多く、事前協議も困難に
なります。
 代位弁済から6ヶ月を経過すると、もはや住宅資金特別条項付き個人再生は利用
できなくなります。また、6ヶ月経過前でも、競売が完了したら、やはり住宅資金
特別条項付き個人再生は利用できません。

その2 家計管理をしっかりと!

1 家計簿をつけよう
 再生計画が認可されたからといって、安心してはいけません。やっと本番がはじまるのです。最低でも3年、住宅資金特別条項がついていれば十年、二十年と返済を続けていかなければならないのです。長丁場の返済を無事に終えるためには、家計の管理が不可欠です。
 まず毎日家計簿をつけることからはじめましょう。家計管理が基本です。日常の支出をこまめにチェックして、無駄な出費、削れる出費を見つけ出しましょう。

2 1割の予備費を
 再生計画の遂行には長い時間がかかります。その間には、怪我や病気など、不測の事態が起こらないとも限りません。生活を切り詰めたギリギリの返済では、ちょっと歯車が狂っただけで挫折してしまいます。
「楽をしよう」と勧めるわけではありませんが、再生計画を考えるときに、あまりタイトな計画を立てるべきではなく、不慮の出費に備えて、月々の支出の10%を予備費として計上するといいでしょう。予備費を含めた堅実な計画を立てた方が、裁判所からも好感を持たれるようです。

3 ボーナスは全額貯金のつもりで
 ボーナス時にまとまった金額を返せれば、月々の負担が軽くなることから、返済計画を立てるとき、ボーナス併用にしたいと考える方も多いでしょう。
 しかし、ボーナスを当てにしていると、気持ちが緩んで、ついお金を使ってしまいがちです。
 また、現在の経済状況では、ボーナスも支給されなかったり、支給額が下がったりすることが珍しくありません。転職などでボーナスが貰えない状況になることも考えられます。ボーナスに頼る返済計画は立てるべきではなく、ボーナスによる家計の補填もできるだけ少なくするよう努力すべきでしょう。

4 保険への加入を考えましょう
 個人再生をする人は、すでに余分の蓄えなどないでしょうし、再生までに保険も全て解約してしまっているかもしれません。
 しかし、再生中は新たな借金はできず、給与所得者再生の場合には7年間は自己破産をしても免責に制限が出てきます。ですから、万一怪我や病気などに見舞われると本当に後がなくなってしまいます。
 ですから、たとえ健康に自信があったとしても、保険料の安い共済や掛け捨ての生命保険などを検討されたほうがいいでしょう。

5 教育費の「無駄」を削ろう
 子供の教育費だけは「聖域」などと考えられ、多少苦しくても塾やお習い事にお金をつぎ込んでしまいがちですが、家計が破綻の危機に瀕しているときには、思い切って削らなければならないでしょう。ピアノや花道などの芸事を2つ3つ身につけるよりも、家族が平和に暮らしていくほうが子供の人生にとってはるかに有益なはずです。それに「子供のため」と言いつつ実際は親の見栄で塾通いを強いている、なんていうことはないでしょうか。

6 何事も包み隠さず
 家族とりわけ配偶者にだけは借金を抱えていることは秘密にしたい、という声もよく聞かれます。しかし、最低でも3年間は返済を続けなければならないのが民事再生ですから、その間ずっと秘密にしておくのは無理な話です。再生期間中は生活を切り詰めて返済を続けるのですから、民事再生を成功させるためには、家族の理解と協力が不可欠です。黙っていたために何も知らされていない家族が高額の買い物などをしてしまい、再生に失敗すると、結局家族全員を巻き込んで破綻するハメになったりします。民事再生に限らず、債務整理をする以上は、生計を共にする家族に内緒で済ませたいなどと考えてはいけません。